蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
エンジン音と同じくらい静かで穏やかな彼の声音に、波風が立っていた自分の心も徐々に凪いでいくのを感じ、私はひとり笑みを浮かべる。
「そう言えば、どうして中條さんはあの場所に……もしかしてこの辺りに住んでいるんですか?」
今私が乗っているこの格好良い車は、時間貸しのパーキングに停まっていたわけではなかった。
もしかしてと考え問いかけると、中條さんはハンドルへと体重を乗せるように上半身を倒し、フロントガラスの向こうを見上げながら指さした。
「えぇ。あのグレーのマンションの十二階に住んでいます」
私も慌てて窓に顔を近づける。
確かに中條さんの言う通り、駐車場の横に隣接する形で十五階建てくらいのマンションが建っていた。
「帰宅しようと駐車場を出たところで、知っている声が聞こえたものですから。少し慌ててしまいました……さ、出発しますよ。シートベルトを」
マンションをぼんやり見つめていた私は中條さんの言葉にハッとし、シートベルトへ急いで手を伸ばす。
車が動き出せば、マンションから街並みへと視線を移動させる。
駅から降りてレストランへと向かう最中は何にも感じなかったのに、ここは中條さんが生活している場所だと知った途端、景色が鮮やかさを増していく。
なぜか特別な場所のように感じてしまう。