蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「音楽をかけても?」
「もちろん!」
信号で止まると、中條さんが私に一言断ってからオーディオを操作した。
控えめな音量で流れ始めたのは私も好きな海外のポップミュージシャンのバラード曲で、切なく包み込むように歌う男性の澄んだ声音についうっとりと息をつく。
中條さんとアーティストの好みが同じなのかもと思えば、ちょっぴり嬉しくなってくる。
私は胸に手をあてながら、そっと瞳を閉じた。
意外な共通点を見つけた気分で嬉しくもあるけれど、中條さんの運転は本人の口調とは比べ物にならないくらいに穏やかで、とても安心して座っていられる。
こういう感覚を何と表現すればいいのだろうか。そんなことを考え、私は自分の心と向き合ってみた。
心地良い。そんな言葉がふっと頭に浮かべば、同時に中條さんとのさきほどの出来事も蘇ってきて、私は勢いよく目を開ける。
私は頬に触れた彼の指先を、心地よかったものとして記憶している。
触れそうなほど近くにあった彼の唇。私の瞳をじっと覗き込んできた彼の熱を帯びた眼差し。
思い出せば頬が熱くなり、鼓動の高鳴りも手の平を通して伝わってくる。
水岡先輩とキスしそうになったことを思い出せば苦い気持ちになるというのに、中條さんだと自分の心はまったく違う反応を示してしまう。