蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
寝てしまったら迷惑をかけてしまうことは分かっている。
けれど、頑張って目を開けたとしてもすぐに瞼が落ち、眠りの底へと飲み込まれていく。
「……花澄さん……したよ」
中條さんの声がどこか遠くから聞こえてくる。
名前を呼ばれたっていうことはなんとなくわかったのだけれど、ぼんやりして頭がうまく働かない。
肩を軽く揺すられる。続けてなにか話しかけられたような気もしたけれど……出来れば放っておいて欲しかった。
居心地の良いこの場所で、私はこのまま眠り続けたい。
「花澄さん。起きてください。着きましたよ」
「……おかまいなく」
彼の声に怖さを覚えるときもあるけれど、それよりも素敵な声だなって聞き惚れてしまう時の方が断然多くて……。
「花澄さん」
今だってそう思う。中條さんの低い声がとってもくすぐったい。
出来れば呼び捨てで名前を呼んでくれたらいいのに……。
そんなことを思ってしまった自分が妙におかしくてちょっぴり笑ってしまえば、「まったく」というぼやきが聞こえたような気がした。
「仕方がありませんね……失礼します」
ふわりと身体が宙に浮かんだ。
慣れない感覚に薄く目を開けると、ぼんやりとした視界に中條さんの顔を捉えた。