蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
一人分の足音が聞こえる。
私は歩いていないのに、移動しているというのはなんとなく感じている。
瞼か重くなっていく。不安定さを和らげたくて、手を伸ばし触れたものにしがみついた。
触れた場所から伝わってきた温かさが、安心感を伴って私の中に広がっていく。
ゆっくりと目を開け、私は彼に笑いかけた。
「……中條さん」
名を呼べば、彼が私を見た。
その綺麗な瞳が私だけを映していることが嬉しくてまた笑みを浮かべれば……彼も私に微笑み返してくれた。
中條さんがとっても優しい顔で笑っている。
天使の微笑みに胸がいっぱいになりながら、私は幸せ気分で彼の首元に顔を埋めたのだった。
+ + +
「いただきます!」
目の前に運ばれてきた明太子のクリームパスタに向かって満面の笑みを浮かべていると、電話を終えた兄がしかめっ面をした。
「……またそれか」
「だって美味しいんだもん!」
「毎回毎回そればっかりだと、見てるこっちが飽きてくる。お前、次は絶対に違うの食べろ」
「やだ。次も絶対これ食べる!」
倉渕物産の自社ビル二階に店舗を構えている飲食店で、ただいま私は兄とふたりで昼食中である。