蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
私が知っている限り、目の前にいる完璧な兄が特別視している女性は、今も昔も麻莉さんただひとりだけである。
学生の頃、兄に媚びようとする女性がほとんどだった中、彼女にそんな様子はまったくなかった。
むしろふたりはライバル関係だったようで、お互いしのぎを削っていたようだった。
彼女に負けたくないと熱くなっていた兄を今でもよく覚えている。
兄の足元にも及ばない自分からすれば、兄が必死にならなければ勝てなかった相手である麻莉さんはとても眩しい存在だったのだ。
それに私と同じように、麻莉さんは西沖グループという大企業の社長を父に持つ人だ。
父の会社を離れこの店で働いている彼女は、“西沖社長の娘”ではなく“西沖麻莉”としてこの店にとって欠かすことのできない人材となっている。
私も彼女のように、格好良い女性になりたい。
「麻莉さんの好きなこのパスタを毎日食べたら、麻莉さんに近づけるかな」
「近づくところか、かなり差をつけることができるんじゃないか?」
「え?」
「体重の話だ」
ひどい。けど確かにその通りだ。そうなってしまう自信がある。
そもそも私は何を口走っているんだろうかと項垂れていると、兄がわずかに口角を上げて得意げな顔をした。