蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「それが嫌なら、花澄がこれから違うメニューも頼めばいい。それで俺の問題も解決する」
そうきたかと、思わず半笑いになる。
好きだと言っているものを俺が見飽きたから控えろだなんて兄は絶対に麻莉さんに言わないけど、それが妹の私だと話は違ってくるというだけのこと。
私は兄を睨みつけながらパスタをひと口食べ、「これすっごく美味しい!」と露骨に褒め称えた。
嫌そうな顔で何か言おうとした兄を、ちょうど兄の頼んだステーキランチを持ってきた麻莉さんが、たしなめるように「遼!」と一言投下していく。
兄はちょっぴり不満そうに、離れ行く麻莉さんの背中を目で追いかけていたけれど、表情はすぐに温かなものへと変化していった。
「本当にお兄ちゃんは麻莉さんのこと好きだよね」
しみじみと呟くと兄はほんの一瞬驚いた顔をし、そしてなにも言わないまま優しく微笑み返してきた。
ふっと二日前のことを思い出し、私はゆっくりとフォークを置く。
「お兄ちゃん、私ね……この前、天使を見たの」
中條さんに家まで送ってもらったあの時、車の中で寝てしまった私を彼が運んでくれた。