蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
自分の部屋のベッドまで運んでくれたその途中、彼は何度も私に優しく微笑みかけてくれた。
半分眠っていたような状態ではあったけれど、確かに私は天使のようにほほ笑む中條さんを見たのだ。
「……お前、気は確かか?」
「でもね今は、私の見間違いだったって思うことにしたの。だってどう考えてもありえないんだもん」
水岡先輩との一件で、ちょっぴり中條さんとの距離が近づいたような気持ちになっていたけれど、昨日も今日も中條さんはいつも通り無表情で、天使の微笑みを見せてくれるどころか、口角すら一ミリも上げてくれないのだ。
「幻だったって思いたいの」
「幻? 何の話ですか?」
切なさと共に出た言葉に疑問をぶつけてきた声は、兄のものではなかった。
いつの間にかテーブル脇に中條さんが立っていた。小首を傾げ、うさん臭そうな顔で私を見下ろしている。
「花澄が天使を見たって」
「はぁ……それはまたお気の毒に」
「花澄大丈夫だ。心配いらない。すべて幻だ。安心して今夜は早く寝ろ」
馬鹿にされたままなのは悔しいけれど、まさかの本人登場で私はそれ以上なにも言えなくなってしまう。