蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~


「昼食をご一緒しても?」

「あぁ」


返事を聞いて、中條さんは「失礼します」と兄の隣の空いている椅子へと腰掛けた。

同じテーブルを囲むことになり、ついつい背筋が伸びてしまう。

メニューを見ている中條さんの様子はいつも通りだというのに、私ばかりが変に彼を意識してしまう。

思い出したくないのに、中條さんとキス寸前まで近づいたあの瞬間のことや、私に見せた優しいあの微笑みが、次々と頭に浮かんできてしまう。

気持ちを落ち着かせようとお水を飲んでいた私に向かって、兄が「あぁそうだ」と話しかけてきた。


「営業から聞いたんだけど……花澄、お前彼氏いるらしいな」


まさかの一言に、吹き出しそうになってしまう。

いったいどこからそんな嘘がと思い、すぐに営業部の刈谷さんが水岡先輩と繋がっていることを思い出す。噂の火種にはたぶんそこだろう。

ちらりと共犯者の中條さんを見れば、彼はいつも通りの涼しげな眼差しを私に返してくる。


「花澄さんにお付き合いしている男性がいらっしゃるのですか? さぞかし素敵な方なんでしょうね」


白々しい言い方で我関せずを決め込んできた中條さんに、思わず目を大きくさせてしまう。


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