蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
おまけに言い終えたあと、兄の目が自分に向けられていないことを良いことに、彼はこっそりと小悪魔的な笑みを浮かべた。
私の記憶の中にかろうじて残っていた彼の優しい笑顔が、音を立てて崩れていく。
「確かに気になるな。どんなやつだよ」
「私、彼氏いないから! いたら自慢するし!」
「……あぁ……確かにそうだな。なんだやっぱり嘘か」
兄にあっさり納得されてしまえば、それはそれでちょっぴり切なくなってしまう。
短くため息を吐けば、それと重なるように中條さんも大袈裟なため息を吐いた。
「そうでしたか残念です。倉渕副社長に自慢できる日が一日でも早く訪れることを祈っております」
今度は憐れんだ様子でそんなことを言ってきた中條さんに、私は眉間のしわを深くさせていく。
「そんなこと言って! 自分はどうなんですか! 中條さんは彼女いるんですか!?」
声を荒げて一気に問いかけたあと、私は少し怖くなる。
自分で聞いておいて答えを知りたくないと強く思ってしまった一方、無表情のまま私を見つめてくる中條さんから目をそらすことができなかった。
私の質問に反応を示したのは、意外にも兄の方だった。