蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「そんなことを仰るなら、あなたのお兄さんも実力ではなく社長の息子だから副社長の席に座っているということになりますよ? そう思いますか?」
「思いません。だってお兄ちゃんは私と違って優秀だもの。倉渕物産になくてはならない人です」
けれど私は違う。悲しいけど、私の代わりなんてすぐに見つかるだろう。
そう思うからこそ、親は関係なく私自身を必要としてくれた水岡先輩の言葉に、気持ちがぐらついてしまっているのかもしれない。
「倉渕社長の娘としてではなくて倉渕花澄としてデザイン事務所で力を発揮してみないかって、水岡先輩に誘ってもらいました。もしかしてこれは私にとって成長するチャンスなのかなって、そんな風に思えてしまって迷っています」
「……そうですか」
中條さんはそう呟いたっきり、タワーを見つめたまま何かを考えこんでいる。
私の思いを聞いて中條さんはどう思っただろう。
この後何を言われるのかと想像すれば、少し怖くなってしまう。
「倉渕物産で働く以上、社長の娘という立場はついて回りますし、確かに皆……特に男性社員はあなたに甘いですからね」
「……私は甘やかされていると感じたことはないですけど、中條さんがそう言うなら……たぶんきっとそれは、私の社長の娘だからで」