蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
三章、あなたの隣にいれさえすれば
倉渕物産の受付前を兄が通り過ぎていく。
私がいることに気が付けば、いつも通り微笑みかけてくれて、それを見た久津間さんがきゃあと嬉しそうに声を上げた。
その一時間後には、出先から戻ってきた営業部の男性社員ふたりが受付前で歩みを止めて、こっそりと私たちにお菓子をくれた。
感謝の言葉を述べれば、嬉しそうな笑顔が返ってきて、また私も嬉しくなってしまう。
昼休憩に入ると同時に、同期の女子社員三人が私の元へと集まってきた。
休憩所へと場所を移して一緒にお昼ご飯を食べ、彼女たちの話に耳を傾け、そして口も挟みながら、ほのぼのとした時間を過ごした。
満腹ななか午後の勤務につけば、程なくして中條さんが兄と共に姿を現した。
いつものように「気持ち以上に顔が緩んでいますよ」と一言多い注意をしたのち、彼は社を出て行った。
中條さんに水岡先輩からの誘い話を打ち明けてから一週間が経った。
仕事や環境など、自分の日常と向き合った一週間でもあったけれど、揺らいでいた気持ちはすぐに消え、今は強い思いだけが胸の中に残っている。
この先も私は兄のような眩い存在にはなれないけれど、それで良いと思うようになれたのだ。