蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
私は私なりに一生懸命で有りさえすれば、気付かないところでちゃんと誰かが見ていてくれて、この前の中條さんのように誰かが私という存在を認めてくれるかもしれない。
何気なく過ぎていた日常を、改めて愛おしく感じることが出来た。
倉渕物産で少しでも父や兄の力になれるように、私は私なりの精一杯で輝いていたい。
それほど思い悩むこともなく答えが出せたのは、きっと中條さんのおかげだ。
あの日くれた言葉が、今の私の力になっている。
「……水岡先輩ですか? 倉渕花澄です」
「花澄ちゃん!? 電話ありがとう! 待ってたよ!」
帰り支度を整えた私は、人が混みあっているロッカールーム内で、電話の向こうにいる相手へと要件を告げる。
「この前のお話のことですが」
水岡先輩は、私の声音から色よい返事ではないと察したのだろう。
「……あぁ」と少しだけ声のトーンを落としたのち、私よりも先に言葉を続けた。
「電話じゃなんだし、会えないかな。ちゃんと顔を見て話したいから」
「分かりました」
電話で断るのも失礼な気がして、私は先輩の提案を受け入れる。
待ち合わせの場所と時刻を何度か復唱してから、私は先輩との通話を切った。