蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「見つけました」
歩み寄ってくる彼は、怒っているようにも、安堵しているようにも見える。
「……中條さん」
向かい合った私たちを兄の車のライトがほんの一瞬照らしだす。
そのまま車は後退し、自宅の門のあたりで方向を転換させると、静かに走り去っていった。
まずは電話にでなかったことを謝るべきなのに、水岡先輩から言われた言葉や先ほど電話越しに聞こえてしまった女性の声のことなど、様々な感情に邪魔をされなかなか言葉が出てこない。
中條さんも同じようだった。
今の私の顔を見て色々察してしまったようで、難しい顔をしている。
緊張感さえ漂い始めたとき……ぐうっとお腹がなった。
静かなこの場で響いた私のお腹の音は、しっかりと中條さんにも届き、苦笑されてしまう。
「偶然ですね。俺も夕食がまだなので、これから付き合っていただけますか?」
「……はい」
穏やかな優しさが込められた彼の誘い方が私にはやっぱり心地よくて、感じていた緊張感や気まずさも忘れ、私は堪えきれないままに笑みを浮かべてしまう。
中條さんにエスコートされ助手席に乗り込んでから、カーナビに表示されている時刻を確認する。