蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
午後七時二十六分。長々と食事をしなければ、あの場所にも行けるかもしれない。
心の中で期待が顔を出すけれど、運転席に戻ってきた中條さんからの「どこで食事をしますか?」という問いかけに、思いを素直に伝えることができなかった。
「どこでも良いです」
顔を伏せてそう答えると、温かな指先が私の頬にそっと触れた。
驚き見れば、すぐに視線が繋がり合う。
悲しげな彼の眼差しを受け取れば、心の奥底に押し込んでいた切なさが少しずつ膨らみ出す。
「花澄さん。許可して頂きたいことがあります」
「……何を?」
「再びこの場に戻り、花澄さんを見送るその瞬間まで、俺をあなたの彼氏にしてください」
思いもよらぬ申し出に頭の中が真っ白になっていく。
「俺の隣にいる間は無理をしないでほしい。気持ちを隠そうなんて思わずに、なにもかも俺にゆだねて欲しい。花澄さんにとって誰よりも俺が気の許せる相手であれば、自然体でいられますよね?」
「中條さん」
彼の優しさに心が震えた。眼尻に浮かんだ涙を指先で拭いながら、私はこくりと頷き返す。
「そこまで言うなら、仕方ないですね……少しだけなら、私の彼氏になっても良いですよ」