蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
背後から車のライトが迫ってきたことに気が付いて、私は中條さんからぎこちなく目を逸らす。
中條さんもちらりと後ろを確認しながら私から手を離し、少しも慌てることなく車を発進させた。
助手席側の窓へと顔を向け、流れていく景色を視界にぼんやりと宿す。
熱くなっている自分の頬にそっと触れると、彼がぽつりと呟いた。
「一時の彼氏役だったとしても、俺では花澄さんのお眼鏡にかないませんか?」
彼らしくない弱気な言い方だったため、思わず狼狽えてしまう。
「そういうことじゃないんです……中條さんは、私の彼氏のふりをして罪悪感はありませんか?」
私からの問いかけにとても驚いたのだろう。彼はほんの一瞬、目を大きくし、私を見た。
すぐに進行方向へと視線を戻し、わずかに首を傾げてみせる。
「誰に対しての罪悪感でしょうか? 社長ですか? 副社長ですか? どちらにせよ、罪悪感などまったく感じておりませんが」
「違います。父でも兄でもありません……中條さん、さっき女性と一緒にいましたよね? その人は彼女ではないんですか?」
中條さんはすぐに納得がいったらしく、二度ほど頷いた。