蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
水岡先輩とのことを話す時がくれば、再び辛い気持ちになるのは分かっているからこそ、自分の今の発言は一大決心のもとで出た言葉だった。
こんなにも寄り添おうとしてくれているのだから、どんなに辛くても私もちゃんと心を開いて彼と向き合うべきだと強く思ったのだ。
中條さんはハンドルを指先で軽くトントンと叩いてから、ふっと小さな笑い声を発した。
「では手始めに、俺を中條ではなく佳一郎と呼んでみてください」
「えっ!? そ、そこまでしないといけませんか?」
「はい。付き合っている相手の名前を甘えた声で呼んでいたとしても、なんらおかしくないのでしょ? さ、とびきりの甘え声でどうぞ」
確かに、女性の甘える声が聞こえたと訴えた時、付き合っていないと言われても納得できないという様な言い方をしてしまった。
けれど私はずっと彼を中條さんと呼んできたため、気恥ずかしくて今更下の名前で呼べるはずがない。
「嫌です」と言ってそっぽを向くと、赤信号につかまり車が停まった。
「そうですか」と淡々と返ってきた声に反応し中條さんを見れば、ちょうど彼も私へと顔を向けにやりと笑いかけてくる。