蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「ではもっと別な呼び方を考えますね。なにが良いでしょう。もっと特別で、恥ずかしさを覚えるような呼び方で……」
「ぜひ名前で呼ばせてくださいっ!」
今以上に難しい要求をされてしまいそうでたまらず口を挟むと、今度は笑いを堪えたような声で、彼が「そうですか」と呟いた。
続けて「どうぞ」と促されてしまい、私は勇気を振り絞る。
「……け、佳一郎、さん」
「甘えも色気もまったく感じません。やり直しを」
「佳一郎さん」
「野太い声で呼ばれても嬉しくありません。やり直し」
青信号に変わり走りだした車の中、「中條さんはいじわるだ」とぶつぶつ言いながら窓の外へと目を向けると、夜空に明るく映えるあの高層展望タワーを視界に捕らえ、一気に気分が上がっていく。
「佳一郎さん! 行き先って、決めましたか?」
「……いえ。どこに行こうかと考えながら車を走らせていました」
「それじゃあ、食事の後の短い時間だけでも良いので、一緒にタワーにのぼりたいです」
この前食事をしながら見たあのタワーを指さしながら行き先を提案すると、彼は小さく頷きウィンカーを出して車線を変更した。