蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
「やった! 有難うございます!」
「可愛い声で呼ばれてしまったので、お願いを聞かないわけにもいきませんからね」
彼に言われ、無意識に「佳一郎さん」と呼んでいたことに気付き、思わず赤面してしまう。
中條さん……佳一郎さんは、彼女相手だとこんなにも甘くなれる人なのかと、私はひどく熱くなってしまった顔を俯かせたのだった。
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この前とは別のお店で手短に食事を済ませてから、私は佳一郎さんと夜景を眺めながら、タワーの展望最上部へと向かって歩いていく。
「実は……中佐都(なかさと)建設取締役の娘さんに好意を持たれてしまったみたいで」
雰囲気のある回廊を進みながら、電話越しに聞いたあの甘えた声の主とはいったいどういう関係なのかと改めて疑問をぶつけると、佳一郎さんが気だるげに打ち明けてくれた。
「中佐都建設。すごいですね」
テレビで頻繁にCMが流れているような有名企業であるため、もちろん私もその名を知っている。
「いえ、すごいと褒めるべきなのはあなたのお兄さんのほうですね。元々彼女は副社長に惚れ込んでおりましたから」
彼はため息を吐きつつ、肩を竦めた。