蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
続きを聞くよりも先に自分の兄が彼に迷惑をかけてしまっていることが分かってしまい、なんだか申し訳ない気持ちになってしまう。
「しかし知っての通り、あなたのお兄さんは今も昔も麻莉さんしか眼中になく、彼女のことは歯牙にもかけませんでしたから、彼女の鬱屈した文句がなぜか俺に……聞き流しているうちに、気が付けば好意の対象までも俺へと変わってしまって」
「そうだったんですか……佳一郎さんも大変ですね」
兄を気に入り、縁談や交際を求めていた女性を、私もたくさん知っている。
佳一郎さんは常に兄の傍にいるからこそ、それ以上の数の女性を見てきているだろうし、兄と同じように器量良しの彼のことだから、こんな風に巻き込まれたこともきっと一度や二度じゃないはずだ。
「本当に……その女性とお付き合いはされてないんですか? もし結婚をしたら、中佐都建設の取締役に就任なんてことにもなるかもしれないのに」
顔を強張らせたまま私はじっと彼の返答を待った。
そのポジションがとても魅力的に見えているのなら、佳一郎さんはいずれ倉渕物産を辞めてしまうかもしれない。
それだけは嫌だと思った。