蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
水岡先輩とのことを思い出さないようにするけれど、投げつけられた言葉に受けたショックや、私に向けられた歪んだ表情がどうしても心の中に蘇ってくる。
全てを吹き飛ばしてしまいたくて明るく笑顔で宣言するけれど、切ない思いが溢れ出しそうになりどうしても声が震えてしまう。
「花澄さん、お忘れですか?」
手すりをぎゅっと握りしめていた手が、温かさにふわりと覆われた。
私の右手に佳一郎さんの右手が重なり、同時に彼の左手も手すりに乗せられ……気が付けば、私の身体は佳一郎さんの腕と腕の間にあった。
後ろから包み込むような体勢で、彼が耳元で囁きかけてくる。
「俺は今、あなたの彼氏です。だから俺の隣にいる間は、無理して笑顔にならなくても良いのですよ」
「佳一郎さん」
彼の言葉が胸をつき、じわりと涙が込み上げてくる。
「どうやったら、倉渕物産の社長の娘ってことを越えられるのかな? 私はそれ以上の価値を自分に見いだすことが出来るのかな?」
鼓動が早鐘を打っている。
私は彼の腕の中で身体を半回転させ、佳一郎さんとしっかり向き合った。