蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~
四章、とびきり甘くて愛おしい時間
ぼんやりと、なおかつ微笑みながら自宅二階の廊下を歩いていると、階段近くの部屋のドアが開いた。
そこから出てきた人物は、私と目が合うと奇妙なものでも見てしまったかのように眉根を寄せた。
「朝から気持ち悪いな」
遠慮なく発せられた一言で、夢心地だった私は一気に現実へと引き戻されてしまう。
「お兄ちゃんこそ、朝から失礼すぎだよ!」
「正直に言ったまでだ」
ぱたりと戸を閉じ歩き出した兄のあとを慌てて追いかけながら、その後ろ姿をじろじろと見てしまう。
「お兄ちゃん、今日はどうしたの?」
自立している兄はなにか用事があるたびこうしてやってくるのだが、朝早く見かけることは稀である。
「麻莉が読みたいって言うから、取りに来た」
言いながら、兄は持っていたハードカバーの本を軽く持ち上げてみせた。
そんな兄がちょっぴり照れているように見えれば、夢心地感がゆったりとした速度で私の中に戻ってきて、緩く笑みを浮かべてしまう。
「わざわざ出勤前に取り来たってことは、それを口実に今日も麻莉さんの所でお昼ご飯を食べるつもりなんですね。ひとりで食べるのが寂しかったら、私がお昼ご飯付き合ってあげても良いですよ?」
ニヤニヤしながら提案すれば、じろりと睨まれてしまった。