蜜月オフィス~過保護な秘書室長に甘やかされてます~


「毎日行ってるみたいに言うな……でもそうだな。俺もいろいろ聞きたいことがあるし、今日の昼は三人で仲良く食べるか。それまでに社に戻って来られればの話だけど」

「……さ、三人、ですか?」


兄の言う三人とは、兄と私と佳一郎さんだと考えて間違いないだろう。


「昨日、あれからどうしたんだよ。それ以前に、お前と佳一郎はいったいどんな……」


階段をおりている途中で、兄が口を噤んだ。

玄関にいた父が私たちに気が付いて、「おはよう」と笑いかけてきた。

私たちはそれぞれに挨拶を返しながら、玄関に立ったままこちらを見ている父の元へと歩み寄っていく。


「確か今日は、大枝(おおえだ)広告との会議があったな」

「はい。社に寄らず、このまま向かおうと思っています」

「そうか。頼むぞ」


ふたりの会話を聞き、兄の“それまでに社に戻って来られれば”と言った意味を理解する。

のろのろと靴を履きながら、良かったような残念なような、何とも言えない気持ちになり、小さくため息をついた。

昨日の夜、綺麗な夜景の見えるあの場所で、私は佳一郎さんと両思いになった。

そして佳一郎さんと、思い出すたび笑みを浮かべてしまうくらい甘くて幸せなキスをした。


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