君に会いたくて

*君の声*




たとえば、意識のない人が病院に運ばれたとき。


容体がよほど悪くない限り、そばについている人はこう言うはずなんだ。



『大丈夫だから』



それすらも言わずに、「すぐに来て」と言った紗枝のお母さん。



紗枝は……もしかして……。



教えてもらった病院は、すぐ近く。

バスや電車に乗ることもなく、歩いていくにはじゅうぶんな距離だった。



亮太は涙をぽろぽろとこぼすたびに、コートの袖で拭っていた。



俺は、涙がこぼれないようにキュッと唇を噛み続けていた。



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