君に会いたくて
「いや、これ返そうと思って」
バッグのファスナーを開け、そこから空っぽになった弁当箱を大切に取り出した。
弁当箱を受け取った紗枝は、「ありがとう」と言って、にこりと笑った。
「それじゃ、また明日」
「えっ? ねぇ、一緒のバスでしょ? 一緒に帰ろうよ」
同じバスに乗るくせに。
立ち去ろうとした俺を、紗枝はきょとんとした顔で引き止めた。
「いや、俺は……」
ただ、いつものように同じバスに乗るだけ。
たったそれだけの、たいしたことじゃないのに、なんだか後ろめたい気分になった。