涙がこぼれないうちに
プロローグ
「警察は自殺の線が高いとしています。」

「最近は自殺が多いね。やはり原因は中学校でのいじめかな。」

喋っているのはアナウンサーとそこそこ名の知られているコメンテーター。彼女のことなんて何も知らない人たちだ。

それなのに可哀想だとか不幸だとか淡々と述べている。

豊田 咲葵はテレビを睨んだ。

今すぐにでもこのスタジオに乱入して、叫びたかった。

お前らに何がわかる、と。

でもそんな資格は咲葵にはない。
だって一番彼女の近くにいて、一番彼女をわかっていなかったのは咲葵自身なのだから。

「生きて。」と彼女は言っていた。
その時咲葵は力強く頷いた。彼女といればなんだって大丈夫な気がしていたのだ。

それなのに。
彼女はもうここにはいない。どこにもいないのだ。

生まれた頃から誰よりも咲葵のそばにいてくれた彼女が自らの命を絶った。
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