涙がこぼれないうちに
決意
「生きて。」

彼女、宮川詩桜が亡くなってから3年が経った。

豊田咲葵は高校1年生になった。彼女の第一志望の高校であった青葉高校に私は入学した。

9月になったにも関わらず、まだ真新しい制服を咲葵は見つめた。この制服を着て笑う彼女を想像すると涙がこぼれそうになる。咲葵はそれを必死に堪える。

「じゃあお父さん行くからな。咲葵もそろそろ行くんだぞ。」

玄関の扉が閉じる音がした。

咲葵は深呼吸をする。高校に行くのはやっぱり緊張する。
小学校の時に倒れてからずっと入退院を繰り返し、中学にはほどんど行ってない。

最近調子が良くなってきて、高校には通っているが出遅れた分まだ馴染めていない。

咲葵は頰を軽く叩いて、家を出た。

学校が近くなるにつれ、足取りは重くなる。

「豊田!」

突然背後から声がする。聞き覚えのある声だ。ずっと鬱陶しいとさえ思っていた声だが、最近その声を聞くとなんだか安心する。

後ろを振り返るとそこには笑顔の天道悟がいる。ふいに私も笑ってしまう。

「付き合おうぜ。」

他の人から言われたなら少しは戸惑うだろう。でも聞き慣れてしまった彼のその言葉には大した意味はないのだと思う。

小さい頃から彼はそばにいた。腐れ縁とでも言うのだろうか。誕生日は3日離れ。出産予定日は同じだったが、彼は難産だった。
それなのに彼は健康優良児だ。中学は一度の遅刻がなければ解禁だった。一年を通して見ても風邪もほとんど引かない。一方で安産だったはずの咲葵は体がとても弱い。

なんとも不思議な話だ。人生はなにが起こるかわからない。

詩桜の一件に関してもそうだ。咲葵は自分がもうじき死ぬかもしれないと何度も押されたが、詩桜が死ぬことなど考えたこともなかった。

「無視すんなよ。これでも俺真剣なんだぞ。」

悟はそう言う。咲葵は思わず笑ってしまう。
そして軽くため息をついて、悟にべろを突き出した。そして小走りで悟から離れた。
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