オオカミ弁護士の餌食になりました

 つられて振り返ると、ほんの数歩先に香坂さんが立っていた。データルームから出てきたところらしく、私たちと目が合うと人の好さそうな顔でにこりと笑う。

「で、どうしたの?」

 宮田に目を戻すと、彼は慌てたように「あ、いや、また今度」と言って出入口のほうへ走っていってしまった。

「なに……」

「有村さん」

 呼ばれて振り向くと、香坂さんが笑顔のまま手招きをしていた。

「ちょっと」

 そう言って白いガラスの部屋へと戻っていく。私はコンビニの袋を提げたままデータルームに入った。

 香坂さんはテーブルに積まれたファイルのうち、一冊を取り出して私に差し出す。

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