オオカミ弁護士の餌食になりました
「は、なして」
心臓が激しく打っていた。香坂さんといるときとは真逆のリズムで、恐怖を増幅させる。
「有村、俺、お前が好きなんだ」
強く抱きしめられて、息ができなくなってくる。
やめて。放して。
そう言いたいのに、喉が震えて声を出せない。全身が粟立ち、冷や汗が肌をすべる。
自分では制御できない大きな力にのみこまれる。そんな感覚が、怖くてたまらなかった。
誰か、助けて。
香坂さん――。
心の中で叫んだとき、がちゃんとドアレバーが下がって勢いよく扉が開いた。
そこに現れた彼は、私たちの姿を認めるといつもの余裕たっぷりの笑みを浮かべて近づいてきた。
「なんだ、コーヒー淹れにいったはずなのに姿が見えないと思ったら、ここにいたのか」