オオカミ弁護士の餌食になりました


 目の前の巨大な水槽の中を、色鮮やかなイエローの熱帯魚が泳ぎ回っている。

 香坂さんの仕事が終わるのを会社のエントランスアプローチで待つこと十分、髪を乱す勢いでドアを出てきた彼に連れてこられたのは、最初のときと同じ、店の真ん中に巨大な水槽が置かれたアクアリウムバーだった。

「最初は単純に、かわいい子だなって思っただけだった」

 カウンターに並んで座りながら、香坂さんはシェリートニックのグラスに向かって懺悔でもするようにうつむく。

「さすが海斗の妹だって、仲間のあいだでも君の容姿は話題だったよ」

 私は自宅の居間を大学生たちに占拠されていた日々を思い出した。


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