オオカミ弁護士の餌食になりました

「実は俺はね、海斗たちとは違うゼミだったんだよ」

「……え?」

「ちょうど勉強中の民訴の判例について家で討論するからって、ほかの授業で一緒だった海斗に誘われて、一度だけのつもりで行ったんだ。で、その日にあの洗面所で兄妹喧嘩を見ちゃって。結局、次の回も参加することに決めた」

 固まっている私をじっと見て、彼は言う。

「俺は、君に会いたくてあの家に行ってたんだよ」

「え……」

「でもまあ、当時は試験勉強もあって誰かと付き合うつもりはなかったから、君と話ができて、一緒に夕食を食べられるだけで満足だった」

 そういって、香坂さんは水滴のついたグラスに口をつけた。


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