オオカミ弁護士の餌食になりました
和花に向き直り、私は片目をつぶってみせた。
「明日の昼にでも、話聞かせてよ。じゃあね」
冴島部長にも頭を下げて、エントランスアプローチを歩き出す。
通りに出ると、一番近い地下鉄の入口に背の高い人影があった。私を認めた香坂さんが小さく手を上げる。
「急に消えるから、びっくりしました」
「見つかるとややこしくなるかなと思ってね」
小さく微笑んで、彼は「行こうか」と歩き出す。
香坂さんの後ろに続きながら、さきほどの光景は何度も頭の中で繰り返された。
とても大切なものを扱うように和花にキスをしていた冴島部長。
普段部下たちから鬼上司と陰口を叩かれているなんてウソみたいに、彼の和花を見る目は優しくて、穏やかで、見ているこちらが恥ずかしくなるくらい愛情たっぷりだった。