オオカミ弁護士の餌食になりました

 バーカウンターの向こう、壁と一体化するように設置されているのは、青く光る巨大な水槽だった。

 まるで壁の向こうが海になっているみたいに、サンゴや岩のあいだをたくさんの熱帯魚が泳ぎ回っている。

「すごい……お店の中にアクアリウムがあるなんて」

「ここ、ワインの種類も豊富だし、食事もなかなかいけるんだよ」

 にこりと微笑む香坂さんを見つめながら、大学生のときの彼を思い出す。

 香坂さんは昔から、センスがよくて、頭がよくて、そして優しかった。

 私が高校生の頃はちょうど両親がそろって海外に行っていて、兄妹ふたりだけだったわが家の家事はほとんど私が受け持っていたのだけれど、なにもしない兄とちがって香坂さんは私を気遣い、手伝いを買って出たりしてくれた。

< 21 / 157 >

この作品をシェア

pagetop