オオカミ弁護士の餌食になりました


 気がつけば四月に入り、香坂さんと会った日から一ヶ月が経っていた。

 弁護士の彼はやはり忙しいらしく、あれ以来連絡はない。

 最初は気になっていたけれど、日が経つにつれて、このままあの話がなくなっても仕方ないなと思った。

 弁護士先生の気まぐれな提案だったのだろうなと。

 けれど四月の半ば。可憐な桜の花が散り、街の至るところで目にしていた初々しい新社会人の姿にも見慣れた頃、それは起こった。

「それじゃあ有村さん、あとはよろしくね」

 メガネの奥の柔和な目を細めて言い、管理部門を統括する江田部長は忙しそうに窓側の自席へ戻っていく。

 目の前に残された人物を見つめたまま、私は開いた口が塞がらなかった。

 そんな私に苦笑を漏らし、彼は微笑む。

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