オオカミ弁護士の餌食になりました
「ということで、よろしく。有村さん」
有村さん、とことさら強調するように苗字を呼んだのは、わが社と顧問契約を結んでいる神谷総合法律事務所から派遣されてきた弁護士、香坂千暁。
「……とりあえず、こちらへどうぞ」
咳払いをして、私は彼を伴いフロアに面したガラス張りの小会議室に移動した。
デスクとテーブルがひとつずつ用意されたこの場所が、しばらくは彼専用の執務室になる。
ドア脇のスイッチを押すと、張り巡らされていた調光ガラスが一瞬にして真っ白に変わる。目隠しができたことを確認して、私は香坂さんに向き直った。
「どうして言ってくれなかったんですか。この前会ったときにはもう決まっていたんでしょ?」