オオカミ弁護士の餌食になりました

 きっと、ほかのだれでもない、香坂さんだから。

 大学生のときと雰囲気はちがっても、頼りがいがあって、私を気遣ってくれる優しい彼のままだから。

 昂りかけた感情を落ち着けるように、下を向いたままぎゅっと唇を噛む。すると、香坂さんの手が私の髪を優しくなでた。

 顔を上げると、至近距離で目が合う。

「泣きそうな顔をしているね」

 私は黙ったまま目を伏せた。

 髪に差し込まれていた指が、静かに離れる。

「今日は、やめておこうか?」

「いいんです。続けてください」 

 とっさに答えて、まっすぐ視線を送る。香坂さんは少しだけ戸惑った顔をして、私の頬にそっと唇を寄せた。


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