SKETCH BOOK



「行ってきます」


大きな声でそう言うと、
あたしは軽やかに階段を降りた。


大丈夫。


上手くやれる。


あたしと橙輝は兄妹になれる。


この気持ちはきっとすぐになくなる。


そう信じて。






靴を履いて家を出ると、
玄関前に松田くんが立っていた。


私服の松田くんはかっこいいと思う。


勿論制服でも十分かっこいいと思うけれど。


なんていうか、制服よりも
私服のほうが大人っぽく見える。


松田くんはあたしを見て驚いた顔をした。


無理もないよね。


誰?って感じ。


こんなのあたしじゃない。


だって松田くんには制服と部屋着しか
見せたことがないもの。


全然違うこの格好を見て、
松田くんはどう思ったかな?


「やっぱり変、だよね」


あははっと笑ってみせると、
松田くんは照れ臭そうに頭をかいて、


それからもう一度あたしを見た。


「ううん。似合ってる。かわいいよ、梓」


「そ、そう?ていうかごめんね、
 遅くなって。待った?」


「全然。急に呼び出してごめんな?」


「ううん。大丈夫。で、どこに行くの?」


「ああ、ちょっと歩こうか」


あたしが頷くと、松田くんは手を差し出した。


これって、手を繋ぐってことだよね?


手を繋ぐことに、あたしはまだ慣れないでいた。



この一週間、学校帰りとかで手は繋いだけれど、
どうも落ち着かない。


彼氏と彼女ってこういうもん?



みんなよく普通に出来るなあ。


なんて思っていると、
松田くんは大きな手であたしの手を優しく包んだ。


「あっ」


「ほら、行こう」


「う、うん」



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