SKETCH BOOK



二人並んでゆっくりと歩く。


ドキドキと、胸が高鳴る。


なんだ、あたし。


橙輝じゃなくてもドキドキするじゃない。


あたし、ちゃんと松田くんを
好きになれるのかもしれない。


だってこんなにドキドキするなんて
思ってなかった。


橙輝ほど低くない声を聞いていると、
心地が良い。


なんというか、落ち着く。


そんな松田くんの声を聞いていると、
気になるワードが耳に入った。


「松田くん、ピアノ弾けるの?」


「え?ああ、まあ小さい頃からやってたからさ」


「へえ、そうなんだ!すごいね!かっこいい!」


「なんだ。そこまで言ってくれるなら
 もっと真剣にやっとくんだったな」


ははっと笑う松田くんと繋がれた手を
ぶんぶんと振って喜ぶと、


松田くんは思い出したように言った。


「そういえば知ってる?
 鳴海はサックス吹けるんだぜ」


「あいつが?」


「そう。俺鳴海と中学から仲良くてさ。
 よく一緒にジャズやってたんだよ」


「ジャスかぁ。かっこいいなぁ」


「どっちが?」


「え?」


「俺?鳴海?」



勿論、どっちも。


だけど橙輝のことを知られたくなくて、
ついつい黙ってしまった。


不安そうな顔であたしを見る松田くん。


はっと我に返って慌てて笑顔を作った。



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