SKETCH BOOK



「松田くんが!」


「そか。良かった」


嬉しそうにあたしの手を強く握った松田くんは
にこにこしていた。


何がそんなに嬉しかったんだろう。


「今度聴かせてあげるね。
 どうせなら鳴海も一緒に」


「いいの?」


「おう」


「やった!」


橙輝のサックスが聴けるんだ。


音楽なんて、ジャズなんて
縁遠いものだと思っていたけど、


橙輝は音楽も得意なのね。


天は二物を与えずっていうけど、
そんなの嘘だ。


「なあ、梓」


「ん?なあに?」



「その、さ。俺のこと、好き?」


ピタっと歩くのをやめて松田くんを見た。


その拍子に、繋がれていた手が離れてしまう。


びっくりしてしまって、何も言えなかった。


松田くんを好き?


好きって言ってあげたいけど、出来ない。


ちゃんと好きにならないと、
言ってはいけないような気がするの。


嘘はつきたくない。


だけど傷つけたくない。


どうすればいいの?



「そんな顔するなよ!
 ちょっと聞いてみただけ。
 気にすんな」


「ご、ごめ……」


「梓が誰を好きかなんて、
 俺には分かってるからさ」


「えっ」




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