SKETCH BOOK
浩平はヒラヒラと手を振って、
あたしを見送った。
インターホンを押すと
すぐに橙輝が出て来て、
ぱっと目が合う。
慌てて逸らすと、橙輝は
「おかえり」と一言言って
奥へと消えていく。
その様子を見ながらぼうっとして玄関に入った。
浩平はかわいいって言ってくれたけど、
橙輝は何とも思わないのかな。
ううん、思うわけない。
こんな風に綺麗にしてくれたのは橙輝だもんね。
リビングに行くとパパとお母さんが
いい感じの雰囲気だったから
声をかけるのをやめて二階に上がった。
部屋の電気をつけて
もう一度鏡の前に立つ。
可愛い。
こんなの今日限りだよね。
勿体ないな、着替えるの。
そう思っていた時。
「俺だけど、入るよ」
「え?あ、うん!」
ガチャッと扉が開いて橙輝が入ってきた。
少しだけ寝たのかな。
よく見ると髪に癖がついていて、
目も眠そうにとろんとしていた。
さっき素気なかったのはこのせいか。
橙輝の手は相変わらず真っ黒だった。
絵を描いている証拠。
その手を汚いと思うことはなく、
なんだか嬉しくなる。
きっと夢中になって描いているうちに
眠くなって寝たのね。
それを想像して一人でにやける。
すると橙輝は少しムッとしたような顔をした。