SKETCH BOOK



家の中に入ると
靴を乱雑に脱ぎ捨ててリビングへ行く。


冷蔵庫から麦茶を取り出して
一気に喉に流し込んだ。


お母さん、出かけてるのかな?


どこにもいない。


「お母さーん?いないのー?」


「おばさんなら買い物にいったよ」



二階から橙輝が降りて来て
そんなことを言う。


今夜お祭りに行くからか、
いつもはジャージなのに私服に着替えていた。


「あんたいつまでもお母さんのこと
 おばさんって呼ぶつもり?」


「しょうがねぇだろ。
 なんて呼んでいいかわかんねぇんだから」


「それにずっと敬語だしさあ。
 なんとかならないわけ?」


「百瀬が慣れすぎなんだよ」



そうかな?


そう言われてみればあたしは
最初からパパって呼べたし、


敬語を使ったこともない。


あたしが単純なだけであって
普通は複雑なんだろうな。


そう思うと悲しくなってきた。


あたしって単純馬鹿っていうのかな。


「どうでもいいけど、
 さっきから何騒いでんだ?」


「ゆ、浴衣着せてもらおうと思って」


「浴衣?」


「今日のお祭り、橙輝も行くんでしょう?」


「ああ」


「浩平に誘われたの。クラスのやつ」


浩平、橙輝にまだ言ってなかったんだ。


ぽかんとしている橙輝は
驚いた様子であたしを見ていた。


そんなに驚かなくてもいいのに。




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