SKETCH BOOK



「あんた、それはないわ」


「ですよね」


そりゃそうだ。


甘い言葉を期待したあたしが馬鹿だった。


「何よそれ。状況把握が
 出来ていないじゃない。

 そんなの松田くんに失礼すぎるわ」


「だよね。そうだよね!
 ああ、あたしはなんてことを……」


「早く気持ちを消すか、
 それか別れるしかないよ?」


「別れる?誰と?」


「松田くんと!」


浩平と別れる……。


考えたこともなかった。


まさか自分が別れを切り出すなんて
そんなことあるわけないと思っていたもの。


別れるなんて選択肢、
あたしにはない。


だとすればこの気持ちを
早急に消すしか道はない。


「でもね梓。あんたは松田くんと
 一緒にいたほうが幸せになれるよ」


「そうかな」


「だってそうでしょ。
 あんたと鳴海くんはその……
 兄妹になるんだし。


 あっちにその気がないなら、
 苦しいだけじゃない」


百合、前と言ってることが違うよ。


前はあんなに橙輝のことを
推しまくってたのに。


百合はあたしの目をじっと見つめて言った。


「苦しいを与える鳴海くんより、
 楽しいを与える松田くんのほうが
 何倍も幸せよ?」


「そうなんだけどさ……」


「とにかくあんたは、
 もう兄妹になるってことを自覚しなさい!
 あと何日もないでしょう?
 それならいっそのこと諦めて
 松田くんに託しちゃいなさいよ」


「うん」




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