SKETCH BOOK
「何してんの?」
その声がして、
みんながはっと息をのんだ。
この声、橙輝だ。
顔を上げると橙輝がたまたま
通りかかったところだった。
浩平も一緒にいる。
二人はあたしたちを驚いたように見ると、
すぐに危険を察知したのか、
顔色を変えて駆け寄ってきた。
「てめぇ!何してんだ!梓から離れろ!」
浩平がおじさんに殴りかかって、
おじさんが地面に倒れ込む。
おじさんは殴られた頬を押さえると、
慌てて車に乗りこみ、いなくなってしまった。
取り残されたのはあたしと綾子たち。
橙輝は綾子をチラッと見た。
「加藤綾子。何してんだ?」
「こ、これは、その」
「仲良しこよし、じゃねぇよなぁ?」
「…………」
「お前ら、なんで助けてやんねぇんだよ。
友達だろ!何笑って見てんだよ!」
橙輝が叫ぶ。
綾子たちは黙って俯いた。
浩平があたしに駆け寄って抱きしめてくれた。
あの日と同じ。体が震えている。
あたしは綾子たちを見て
咄嗟に浩平の手を振り払った。
浩平は悲しそうな顔を見せたけど、
それ以上触ることはしなかった。
「どういうことだ?あのおっさんと
グルだったってことか?」
「……だって、梓が悪いのよ」
「なに?」
「松田くんと付き合ったかと思ったら
今度は鳴海くんにちょっかいだして。
どういうつもりなのよ。
鳴海くんや松田くんを好きな子は
いっぱいいるのに、あたしたちは
構ってもらえないのに、
梓だけ甘やかされて構われてるなんて
納得できない!
だから近づくなっていったのよ!悪い?」
綾子が勢いよく吠えた。
そうよそうよと夏美や胡桃が加勢に入る。
橙輝はそんなみんなを睨みつけて言った。
「それでこんなことして、犯罪だろ。
好きだからなんだよ。こんなことする奴、
相手にするやつなんているわけねぇだろ」
「だって!梓は好きでもないのに
鳴海くんといつも一緒だから!」
「一緒にいちゃ悪いかよ」
その瞬間はっとした。
まさか、まさか橙輝、
言っちゃうんじゃ……。
浩平もそう思ったみたいで、
焦ったように橙輝を呼んだ。
「だって俺たちは」
「橙輝!」
「兄妹だからな」