SKETCH BOOK
言ってしまった。
みんなは息をのんで
あたしと橙輝を見つめた。
浩平は驚いた顔をして橙輝を見ていた。
言ってしまったのね。
言ってはいけない秘密を。
あたしと橙輝と、浩平だけの秘密を。
「きょ、兄妹?」
「そうだ。親同士が再婚して、
それで兄妹になった。
だから俺は梓を構うんだ。悪いか?」
橙輝は淡々とそう言った。
そしてあたしの手を取ると、再び口を開いた。
「今度梓に何かしたら俺が許さねぇ。分かったか」
誰も、何も言えなかった。
だって誰が想像できる?
あたしと橙輝が兄妹だなんて。
あたしでさえ、
やっと受け入れた事実なのに。
綾子は驚いた様子であたしたちを
交互に見つめていたけれど、
そのうち唇を噛みしめて俯いた。
「綾子……あたし」
「もう、いいわ。分かったわよ」
綾子はポツリと言うと、
顔を上げてあたしを見つめた。
「胡桃は、鳴海くんが大好きなのよ」
「うん」
「あたしも、好きだったのよ」
綾子は目に涙を浮かべてそう言った。
こんな時にのん気なことを言うけれど、
いいなあ。
はっきりと自分の気持ちが言えて。
あたしは絶対に言うことが出来ないもの。
好きな人に好きだと言えることがどれだけ幸せか。
橙輝はあたしの手を引いてその場を離れた。
綾子たちは特に追ってくることもなく、
あたしはただ手を引かれて歩いていた。
次第に涙が溢れてきて、
橙輝にバレないように俯いて歩いた。
家に着く頃には雨が降ってきて、
家の中に入ると突然大雨に変わった。