SKETCH BOOK
「少し濡れたか。タオルやるから拭けよ」
橙輝にタオルを渡されて、
あたしはそれを受け取って頭を拭いた。
赤く腫れているであろう顔を見られたくなくて
急いで自分の部屋に入ると、
しばらくしてドアがノックされた。
「俺。入るぞ」
何も言えなくて、
無情にも扉は開いてしまう。
橙輝が入って来て扉を閉めると、
橙輝はあたしの顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
「なんでいじめられてた?
なんで俺に言わない?」
そんなの、言えるわけがないじゃない。
橙輝が好きだからなんて、言えるわけがない。
俯いて何も言わないでいると、
橙輝はため息をついた。
「何も言わないのもいいけどよ、
危なかったんだぞ。
もっと気を付けないと、
そのうちもっとひどい目にあってたかもしれないんだぞ」
「気を付けろって、
何に気を付ければいいのよ」
ぼそっと呟くと、橙輝は
聞き逃さないぞというように耳を傾けた。
あ、橙輝の匂いがする。
この感じ、とっても落ち着く。
あ、首元が濡れてる。
雨のせいかな。
気づくとあたしは
関係ないことで頭がいっぱいになっていた。
「なに?梓」
橙輝の声が耳に入ってくる。
頭の中で低い声が響いている。
安心するような匂いとその響きにやられて、
自分の中の理性がどんどん崩れていくのが分かった。
「……なの」
「えっ?」
「好き、なの」