SKETCH BOOK
百合が去って行って、あたしは
ふうとため息をついた。
頬杖をついてチラリと横を見る。
男の子は真剣な眼差しで手を動かしていた。
何を書いているのかな?
覗きたいけど、ダメだよね。
怪しまれちゃう。
確かにかっこいいけど、
声なんかかけられない。
派手な百合と違って、こんな
パッとしないあたしなんかが
話しかけていいレベルの人じゃない。
そう思ってまたため息を吐くと、
担任が教室に入って来た。
「えー、まずは自己紹介を――」
窓の外をぼうっと眺める。
一人ずつ自己紹介が始まっても、
あたしだけはどこか上の空だった。
高校生活への不安が過る。
勉強もそうだけど、
友達とか出来るのかな?
いつまでも百合に頼りきりじゃいけないよね。
なんとか友達を見つけないと……。
「百瀬。百瀬!」
「へ?あ、はい!」
「どうしたー?ぼうっとして。
自己紹介、お前の番だぞ」
「あ、はい!」
思い切り立ち上がると、みんなの視線が
あたしを突きさす。
どうしよう。
何も聞いていなかったし、
どんな風に自己紹介したらいいのか……。
「えっと、百瀬、梓です。
桜南中から来ました。
よろしくお願いします」
「なんだ?それだけか?……まあいいか」
担任に笑われて、あたしは
そそくさと席に着いた。
隣の席を横目で見る。
そういえば、この人の自己紹介も聞けなかった。
なんていう名前なんだろう。
男の子は今もまだ、手を動かしている。
勉強熱心なのかな?
進学校でもないのに。