SKETCH BOOK



橙輝はぱっと手を離して
プリントに目を落とした。


「ここも間違ってる」


「あ、う、うん」


動揺しているのはあたしだけ?


なんだかみっともない。


ちょっと距離が近いからって
動揺した自分が恥ずかしくなるくらい、


橙輝は普通だった。





その後も橙輝はプリントを手伝ってくれて、
一時間くらいで終わった。


職員室に提出に行くと
先生が呆れたようにため息をついた。


「なあ、百瀬。もうちょっと
 引き締めていかないと
 みんなに置いて行かれるぞ」


「はぁい。すみませんでした」


「明日からはしっかりしろよ」


「はぁい」




職員室から出てくると、
橙輝が廊下に座り込んでいた。


「……もしかして待っててくれたの?」


「待ってたっていうか……
 どうせ帰るとこ一緒だろ」


「あ、そっか」



橙輝は立ち上がると、
スタスタと歩き出した。


置いていかれないようについていくと、
橙輝は一度振り返った。


「遅い。置いていくぞ」


「待ってよ、ちょっと速すぎない?」


「百瀬が遅いんだよ」



橙輝はあたしのことを「百瀬」と呼んだ。



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