SKETCH BOOK
不器用、ねえ。
確かにそんな顔はしているかもしれない。
あれが照れ隠し?
そんなわけない。
橙輝はあたしのこと嫌いなはず。
だってあんなにも邪魔者扱いされるんだよ?
絶対パパの言ったことは間違いだ。
そう思った。
川釣りを終えたパパと橙輝が
あたしたちのいるところまで戻ってきた。
沢山釣れたみたいで、
クーラーボックスの中身を
自慢げに見せてくれた。
二人とも同じ顔をしているもんだから、
なんだか可笑しい。
「今日のお夕飯は魚づくしね♪」
お母さんが嬉しそうに笑う。
こんなお母さんの笑っている顔、
久しぶりに見た。
お父さんと喧嘩をするようになってから、
毎日不機嫌だった母からは想像もつかないほど、
よく笑うようになった。
お父さんといる時はそんな顔
一度も見せたことはないのに、
パパといる時は乙女のように笑う。
この人がお母さんにいい影響を与えている。
それは嬉しいことだけれど、
やっぱり抵抗はある。
あと六か月かぁ。
あたしはそれまでに、
この生活に慣れているのかなぁ。
二人の再婚を認めて受け入れてしまうと、
お父さんとの思い出が消えてしまいそうで怖い。
パパも優しくていいと思うけど、
やっぱりあたしはお父さんっ子だったから
少し寂しい。
心のどこかではまだ、お父さんとの
修復が出来るような気もしていた。
そうだと信じたかった。
パパや橙輝と一緒にいる時間が重なるたびに、
お父さんの影が小さくなっていくようだった。