SKETCH BOOK



先生に二度も怒られて、
あたしは肩を落とした。


勉強か……。


そろそろ本気で勉強しないとまずいなあ。


これじゃあ、本当に夏休みが無くなっちゃう。


誰かに教えてもらおうにも、
橙輝とばっかり話しているから友達はいないし、


かといって橙輝に頼もうにも、
それはあたしのプライドが許さない。


でも一人でやるには頭が足りない。


本当の本当に大ピンチだ。




授業中、あたしはなんとかして
勉強する方法を探していた。


そのうちウトウトし始めて、
これじゃあいけないと頬を叩いて気合いを入れる。


ふと横目に橙輝を見ると、
橙輝は相変わらずスケッチブックに絵を描いていた。


『嫌いだよ』




絵を嫌いだと言った橙輝の言葉を思い返す。


本当に嫌いなのかな?


時折苦しそうに絵を描いている姿を見ると、
嫌いなんだろうなって思う。


だけど、嫌いな絵をわざわざ時間をかけて
描くなんて、


好きじゃないと出来ないような気もする。


 


手元を覗くと、あの時に見た人と
同じ人が描かれていた。


美しい人。


空想の人物かな?


本当に実在する人かな?


どっちにしても綺麗な人だ。




思えば橙輝は、この絵以外に
書いているところを見たことがない。


どの絵にも、必ずこの女の人が描かれる。


何か意味があるのかな?


「なんだよ」


「えっ?」


ふいに声をかけられて我に返ると、
橙輝が怪訝そうな顔を向けていた。


ぱっと絵から視線を逸らすと、
橙輝は大きくため息をついた。


「人のこと気にしてるから勉強が捗らねぇんだよ」


「なっ……!」


「俺に構うな。集中して授業受けろよ」



ガタンと席を立つ橙輝。


入学して一ヶ月。


先生たちも橙輝には何も言わなくなった。


多分、学年一位の好成績だし、
もう一つ理由があるとすれば


不良っぽくて怖いから。


だから先生たちも何も言わない。


橙輝のやりたい放題だ。


廊下に出て行った橙輝を目で追うと、
何事もなかったかのように授業を再開した。



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