SKETCH BOOK
「俺の話ばかりして悪かったな。
そろそろ帰るか」
立ち上がった橙輝は大きく伸びをすると、
あたしを見た。
そんな橙輝を見上げていたら、
自然と涙が出てきた。
びっくりした橙輝は目を丸くした。
「な、なんで泣くんだよ」
「知らない。ただ、あんたが泣かないから、
代わりに泣いてあげてるのよ!」
勢いでそう言うと、橙輝は柔らかく笑った。
「そうか。ありがとうな」
ポンと頭を撫でられると、
ますます涙が溢れてきた。
そんなに優しくしないで。
だって、気付いちゃったんだもの。
あたしはもう、後戻り出来ないんだ。
橙輝の跨る自転車に同じように跨り、身を任せる。
考えると涙が止まらなくて、
ずっと橙輝の背中に顔をつけて泣いていた。
橙輝は気付いていないのか、
わざと知らないフリをしてくれているのか
分からないけれど、何か歌を歌っていた。
その歌声を耳にしながら、
あたしは泣き疲れて深い眠りに落ちていた。
気付いちゃったの。
あたし、橙輝が好きなんだって。