SKETCH BOOK



バタバタと二階に上がって
廊下に背中を預ける。


橙輝以外の男の子と話すなんて
久しぶりすぎて、対応が分からない。


ただ火照る頬を押さえて深呼吸すると、
半ば怒りに満ちた声で怒鳴った。


「ちょっと橙輝!いつまで絵を描いて……」



部屋の中に入ると、あっという間に
その空気に包まれた。


真剣な顔つき、止まらない指。


いつも思うのは、橙輝の絵を描く姿は妖艶で、
つい見とれてしまう。


今もまだ、麻美さんを想って
絵を描いているのかな。


苦しそうな姿は見たくないけれど、
絵を描く時の橙輝が好き。


一度認めてしまうと、
たまらなく恋焦がれてしまう。



それはもう、とめられないほどに。







「どうした?」


あたしに気付いた橙輝は顔を上げた。


初めて会った時は睨みつけてきたくせに、
今じゃそんなに優しい顔をするのね。


あたしが麻美さんに似ているから?


まだ麻美さんに対する嫉妬心が消えてくれない。


早く、この気持ちを静めなくちゃいけないのに。



「ご飯、出来たよ」


「そうか」



橙輝は手を止めて立ち上がった。


そんな様子をぼうっと眺めていると、
いつのまにか橙輝が傍にいて、頭に手を乗せていた。


「どうした?下行くぞ」


「う、うん」



少しだけ俯いたことに橙輝は気付かない。


あたしを置いてトントンと下へ下がっていってしまった。






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